「三人寄れば文殊の知恵」と言われるように、文殊菩薩は智慧を司る菩薩です。「智慧」というのは単なる知識のことではなく、世界の本質を見通し見極める力のことで、仏教の本質的な教えを理解する力のことでもあります。釈迦如来の左側に控え、右側の「行」を司る普賢菩薩と合わせて完全無欠な悟りを表します。
童子の姿で表されているのは文殊の智慧に一切のけがれや執着のないことを示しています。5つに結い上げた髪型は「五髻(ごけい)」と呼ばれ、密教では敬愛や息災を願って造像されたことを表します。
モデルは鎌倉時代の名仏師・善円の作と見られる文殊菩薩立像。理知的な目元と、対照的に丸みを帯びた頬と愛らしい口元がその作風を顕著に示しています。髪の毛の毛筋彫りも見事で、美しい曲線が集まって五髻を作りあげています。
イスムでは、右足に少しだけ重心をかけ、わずかに腰をひねったやわらかな曲線の美しさにこだわって制作、波打つ衣文のひとつひとつまで丁寧に再現しました。