『木造弥勒菩薩半跏像』、右足を曲げて左膝の上に乗せ、右手の指を頬に向け、想いにふける半跏思惟の姿勢で有名なこの像は彫刻作品として初めて国宝に認定されました。造像からおよそ1400年の時を経た現在でもアルカイックスマイルと呼ばれる微笑と優美な体躯で人々を魅了しています。
この度、仏像ファンの心を捉えて離さない国宝『木造弥勒菩薩半跏像』の再現に挑みました。長年に渡り蓄積した仏像制作のノウハウと美術工芸品の製造技術を結集し、総高40cmの木彫り像に仕上げました。彩色は仏像彩色の第一人者である篁千礼が手掛け厳かさを演出しています。
心持ち前傾姿勢をとり左足を踏み下げ、その膝の上に右足を組んで坐り、右手を頬に添えて思案する姿。こうした座り方を半跏、もの思いに耽ることを思惟ということから、このような姿勢を持った仏像を半跏思惟像といいます。弥勒菩薩は半跏思惟のお姿で、お釈迦様の教えで救われなかった人々を救済する方法を思い描きながら、56億7千万年後に現れる未来仏とされています。慈悲深いお姿が見事に表現されたこの像は、表情や指先、体の角度などバランス一つ崩れるだけでも雰囲気が変わってしまうため、造形に経験や技術が必要な像です。その繊細な造形を見事に再現いたしました。
江戸時代までは仏像に彩色を施すのは当たり前のことでした。しかし明治の時代になり西洋彫刻のフォルム至上主義の考え方が浸透する中で、いつしか仏像への彩色は邪魔なものとされるようになりました。そのような風潮に反し、日本古来の彩色木彫を大きく復活させたのが、日本彫刻界の巨星であり文化勲章を受章した平櫛田中(ひらぐし でんちゅう)でした。田中が残した数々の名品、その彩色のほとんどを任されていたのが彩色師 平野富山(ひらの ふざん)でした。本作品は木目を活かしつつ、部分的に金箔を施した仕上げがなされています。これは長い年月をかけ金箔が剥落し、現在の姿になった国宝『木造弥勒菩薩半跏像』の楚々とした佇まいがもたらすイメージを壊すことなく、僅かな華やぎを添えるという篁氏ならではの絶妙なバランス感覚で仕上げられたものです。
本作品の彩色を手掛けた篁千礼は富山の正当後継者の一人であり、仏像彩色の第一人者です。篁氏は彩色に際し、まず仏像それぞれの性格、特性を表す紋様、バランスのとれた配色を構想します。国宝『木造弥勒菩薩半跏像』は、現在では木肌が現れ、落ち着いた雰囲気を醸し出していますが、造像当時は像全体に漆で金箔を貼り付けた光輝く漆箔像であったとされています。